我流皆既日食撮影計画

1999年トルコ皆既日食(お気楽)撮影プラン


まえがき

1999年8月にヨーロッパ〜トルコを通る皆既日食に向けて、撮影プランを立てることにしました。 今回は、コプティック星座館の企画する、近畿日本ツーリストのツアーに参加して、 トルコのシヴァスというところで、日食を見るつもりです。
このページは、SHIVAが、今回の日食に向けて撮影プランを立てたものですが、 今後の日食の撮影を行う人に参考になればと思い、公開することにしました。 なお、本ページを見た結果、撮影に失敗しても、SHIVAは責任取れませんのでご承知ください。
本ページで使用しているシミュレータは、 株式会社アストロアーツのステラナビゲータ(株式会社アスキー発行) を用いており、ページ中の星図は 使用許諾に基づいて使用しています。
しかし、一生懸命撮影プランを練ったところで、晴れなきゃ意味ないんだよなぁ。



観測地とシミュレーション緒元

事前説明会の資料によると、今回の観測地と時刻は以下の様に紹介されています。 与えられた緯度,経度によりシミュレーションを行った結果、第2,第3接触の時間に約1分の 差があるものの、ほぼ上記と同様の値となりました。



機材について

とりあえず、手持ちの機材で、今回使えそうなものは、 といったとこです。
これらの機材を元に、まず初めに焦点距離から考えてみました。
FC-60を直焦点で用いた場合、焦点距離500mmの望遠レンズとして用いることが出来ます。 これにバリエクステンダーをつけることで、合成焦点距離は800mm〜1500mmまで 段階的に変えられます。 皆既日食の場合、外部コロナまで撮影しようとした場合、(諸説あるようですが...)f=600mm〜700mm くらいが適当といわれています。 FC=60の場合、ノーマルで500mm,バリエクステンダーをつけて800mmなので、f=500mmと800mmの場合に ついて写野と太陽の大きさをシミュレーションしてみることにしました。

焦点距離の図

図中の外側の四角で囲んだ部分が500mmの場合の写野,内側が800mmの時の写野を示しています。 これを見ると、やはり500mmだとちょっと迫力に乏しい感じは否めない。 というわけで、望遠鏡とバリエクステンダーを組み合わせて、f=800mmとすることにしました。 ただし状況によっては、バリエクステンダーを外して500mmで撮影することも考えて おこうかと思っています。
続いて架台の選択について考えてみます。上のリストを見れば、当然スペースボーイを使うのがあたりまえ のような気がしますが、いまのところSHIVAは、カメラ三脚+微動装置の組み合わせを考えています。 理由は、赤道儀は重いからというそれだけの理由です。 まぁ、これが本ページの趣旨である”お気楽”たる由縁なのですが...。 赤道儀を持っていくメリットは、極軸さえしっかりあわせておけば、かってに太陽を追尾して くれるので(厳密には恒星を追尾しているわけだが)、ファインダーを気にする必要が無い。 デメリットは、重い赤道儀を旅行中持ち歩くこと。まぁスーツケースに入れておけば、旅行中 ずっと携えるわけでじゃないけど、やっぱ私にはめんどうくさい。 誤解しないでほしいのですが、別に赤道儀を持っていく人を、否定しているわけじゃないん ですよ。まぁこの辺は個人の考え方かな。赤道儀を持っていかないことによるデメリットは、 太陽を追尾してくれないため、マニュアルで太陽を導入しなきゃならないこと。 そこで、f=800mmで皆既の前後でファインダーの中の太陽がどのように移動するかを シミュレーションしてみることにしました。

皆既前後のファインダー

図中の一部切れている4角形が800mmの写野を示しています。 図から皆既中(第2接触〜第3接触)に、ほぼ直径分太陽が動く程度なので、 皆既の前から太陽の動きを追って、上手く設定できれば、皆既中はほとんど カメラを動かさずに撮れそうですね。微動装置は20度くらいは動くので、皆既前30分くらいに 設定すれば、あとは微動装置だけで方向を決められそう。方向追尾が難しそうなら、 早い段階でバリエクステンダーをはずして500mmにすれば、多少は易しくなるでしょう。 カメラの角度は望遠鏡のカメラ角回転装置で360度回せるのでこの点は問題ないですね。 あとは、太陽高度が約55度あるのが気になりますが、 前回のタイ皆既日食も、ほぼ太陽高度55度だったので なんとかなるかなと楽観的に考えています。ただし前回はカメラレンズ(f=210mm)で撮影したのでその点は 心配ではありますが...。 まだ皆既まで時間があるし、シヴァスの緯度も、ほぼ日本の東北地方と同じくらいなので、 いずれ日本でなるべく近い条件でリハーサルをやろうかと思っています。

いまのところ、機材に関しては上記の様なプランですが、まだ赤道儀を持っていくという可能性も 全く0というわけではないです。 とりあえず荷造りをしてみて場所があるようなら持っていくかもしれません。(6月現在どうするか未定...)



フィルムについて

まずはじめに、フィルムのISO感度を決めるため、露出時間から考えることにしました。 今回は三脚に固定しての撮影になるので、露出時間が長いと太陽の移動による影響がでてきます。 天文年鑑によると、固定撮影で星を点像に写すための目安が書いてあるページがあります。 天文年鑑の値は、焦点距離800mmの場合については書かれていませんが、 焦点距離と点像に写すための露出時間は反比例の関係のようなので、これを元に計算すると、 天の赤道付近で焦点距離800mmの場合、露出時間は1/2以下で点像が得られると考えられます。 実際には面積を持った太陽の撮影であるから、星の場合よりは多めに露出をかけても 大丈夫と思われます。そこで、実際に1秒露出をかけたとき、写野の中の太陽がどの程度移動するかを シミュレーションしてみました。

1秒露出時の太陽の移動

図中の一部切れている4角形が800mmの写野を示します。月縁を示す円が2重になっていますが、 これが1秒間に移動する量に相当します。この図から、やはり太陽の動きが多少気になりますが、 なんとかなりそうな気もします。そこで、露出時間は最大1/2秒〜1秒を目安として考えることにしました。 まぁ実際の撮影の際には、もう少し露出時間をかけた撮影もするつもりでありますが...
次に、フィルムのISO感度について考えてみます。 日食撮影の際の露出,フィルム感度,F値の関係目安は、前回のタイ皆既日食の際に、 いただいた資料があるので参考にます。以下はその値を示します。 また、天文年鑑には太陽面撮影の露出時間表があります。 こちらは部分日食用ですが、部分日食も撮影するという方のために、 こちらの方も掲載しておきましょう。 これらは、気象条件や太陽高度などにより変わります。 薄曇の時や太陽高度が低い場合は、大気による減光などにより、 適正露出も変わります。(念のため)

FC-60はノーマルでF=8.3ですが、今回はバリエクステンダーをつけるので合成Fで考える 必要があります。合成Fは、焦点距離/口径で示されるので、F=13.3となります。 したがって上の表のF=11もしくはF=16の値を参考にすることにしました。
その結果、上の図から、最大露出1/2〜1秒でF=13.3を考えると、外部コロナまで撮影するためには フィルムのISO値は最低でもISO=200〜400くらいが欲しいことがわかります。 一般にフィルム感度が高くなると粒子が粗くなります。可能ならば出来るだけ感度の低い フィルムで撮影したいのですが、この辺のトレードオフは最も悩む部分ですね。 そこでとりあえずは、ISO=200か400を念頭に置いてフィルム選びをすることにしました。
さていよいよフィルム選びに入ります。フィルムはカラーのデイライトタイプを使うつもりですが、 まず最初にネガを使うかリバーサルを使うかが大きな分岐点になります。 リバーサルというのは、いわゆるスライド投影用のフィルムのことです。 一般的にリバーサルフィルムの場合、ラチチュードが狭い反面、強いコントラストが得られるという 特徴があります。一方で、ネガフィルムはラチチュードが広いため、リバーサルに比べ 失敗は少なくなりますが、特に天体写真のようにコントラストの高い写真を狙う場合、 リバーサルに比べ、コントラストが得にくいという特徴があります。 実際に「天文ガイド」などに載っている過去の日食写真を見たSHIVAの個人的な印象では、 ネガフィルムではコロナが真っ白になりやすく、プロミネンスなどが コロナに埋もれてしまいやすいというような気がします。 この辺りは、個人の好みの問題ですね。もちろんネガフィルムを否定している訳ではありません。 1995年のタイの時には、SHIVAは特にコントラストが強いことで知られている FUJIのVelviaというISO=50のリバーサルフィルムを持っていって、 結構好感触を得ており、それにすっかり味をしめてしまったため、今回もできれば リバーサルフィルムで撮りたいと思っています。今回はISO=200〜400ということで Velviaは選択外ですが、目下条件にあうフィルムを物色中です。 何かお薦めのフィルムがあれば、是非メールください。
現在のところ有力候補として、コダックのE200というフィルムを考えています。 もい1つのFUJIのMS100/1000というフィルムも考えており、とりあえず現地には 両方持っていって、現地でどちらかにするか決めようと考えております。 MS100/1000は、撮影した後、現像の段階でISO=100〜1000の間で現像が出来るフィルムで、 これなら、突然f=500での撮影に切り替えた場合でも、当初の予定通り撮影して、 現像の段階で1段階感度を落として現像することで対処できるし、 逆にうす曇の下での撮影になってしまった場合でも、現像の段階で1段階程度 増感するという技が使えるかなと期待したりしています。 ただし、このフィルムは新しいフィルムのため、日食撮影に関する過去の実績が ないという問題がありますが、まぁこれば、FUJIの新しいネガフィルムのSUPERシリーズや、 KonicaのCENTURIAシリーズにも言えることですね。

ところで余談になりますが、FUJIの新しいSUPERシリーズですが、今回の日食でこのフィルムの 使用を考えている人がおりましたら、むしろ旧シリーズのSUPER G ACEを使用するか、 他社のフィルムを使用した方が良い結果が得られるかもしれません。 FUJIの新しいSUPERシリーズは、赤外の波長帯の感度が低いため、特にプロミネンスなどが 写りにくい可能性があります。この点に関しては、旧シリーズのSUPER G ACE (手に入れにくいかも知れませんが、Fujifilmのホームページにはラインナップされて るんですよね)や、KonicaのCENTURIAシリーズの方が良いように思います。 CENTURIAシリーズも旧シリーズに比べると若干赤外の感度が落ちているそうですが、 CENTURIAのうちISO=400のラインアップだけは、旧JXシリーズと同じ乳剤を 用いているらしいので、もしプロミネンスにこだわるなら試してみるのもいいかと思います。



リハーサル

7月15日、実際に撮影を考えているセットが旅行バッグに入るか試すため準備していたら、 午後2時ごろ晴れてきて太陽が見えはじめたので、今回の組み合わせで問題ないか、 カメラにフィルムを入れない状態で試してみることにしました。 その結果、太陽の導入等には特に問題ないのですが、1つ問題点が明らかになりました。 実は前からある程度予想はしていたのですが、三脚の強度不足のため 写野が震えてまうのです。三脚はカメラ用の三脚ですが、もともとf=200mm程度までの モデルなので、さもありなんといったところですか。 足の開き角や伸縮の段数を減らしていろいろ試しても、フィルムチャージのため カメラに触れると、振動が収まるまでに0.5秒くらいかかります。 振動は1秒間に5〜10回くらい、振動幅は写野の中で太陽の直径の10%くらいでした。 一旦振動が収まれば、レリーズをつかえば問題無く撮影できそうなので、 フィルムチャージの直後、1秒くらい待ってから撮影すればいいのですが、 問題はダイヤモンドリングの時ですね。この時は悠長に振動が収まるのを待っていられない。 計算してみると、ISO=200のフィルムなら露出時間が1/250秒くらいなので、 露出時間中に最大太陽の直径の2〜3%くらい動いてしまうことになります。 ISO=400ならザックリ言って半分。というわけで、改めてISO=400のフィルムをメインに 考えてみることにしました。 現在MS100/1000の他に条件に合ったフィルムを探しています。



あとがき

というわけで、まぁ日食撮影の際の参考になればと思ってこのページを立ち上げました。 SHIVAはちょっと長めのスケジュールのツアーに参加するつもりで、さらに もしMS100/1000を使用して撮影した場合、現像に多少時間がかかるので、 出来あがった写真を見るのは8月下旬くらいになるかも知れません。良い写真が撮れたら このページで紹介するつもりです。いまはとにかく晴れることだけを祈ってます。 あと、急に旅行をキャンセルするような事態にならないことも。
# このところ仕事が忙しくなってきて、洒落になってないんだよなぁ。

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